
平成22年10月7・8日
田辺 昭人
第72回全国都市問題会議が、10月7日・8日の両日、神戸市で開催された。
今回のテーマは「都市の危機管理〜協働・参画と総合対策」である。
その発生を予見することができない「危機」。
行政だけの力では対応することはおのずと限界がある。そのため企業も含め市民との協働のもと、地域特性に応じた効率的・効果的な危機管理体制を構築することが重要である。
神戸市は、未曾有の都市型災害となった「阪神・淡路大震災」や昨年の新型インフルエンザの国内初の感染確認という新たな脅威を経験を経た都市であり、そこから見事なまでの復興を為し得た様子から、都市の危機管理能力の向上に向け、市民との協働と参画を通じた総合対策のあり方について学びたいと思う。
■初日
基調講演:明治大学危機管理研究センター所長 中邨章氏
主報告:神戸市長 矢田立郎
■一般報告
1.京都大学防災研究所 林春男教授
2.鹿児島市長 森博幸
3.(財)建設業技術者センター常務理事 上村章文
■二日目(パネルディスカッション)
■所見
危機管理という表現が日本でもようやく定着してきた。それは、世界各地で引き続く災害や事故の増加が、状況を大きく変えてきたということである。
危機管理という表現は日常化し、今では危機管理の専門部署を設置する自治体が増え、不測事態に対応するガイドラインを作るところも増えつつある現状である。
しかし、日本の場合を考えると固有の難しい難題があることも事実である。それは、日本の住民の意識にある行政や政治に対する不信感である。公務員に対しても強い不満を持つのが通例であるが、一方では詰まるところ行政依存という日本国民の特性とも言えよう。
連絡すれば間違いなく駆けつけるパトカーや救急車と思い込んでいるが、事故や災害の規模が大きくなればなるほど、あてにならないのが公助である。
この問題を考えるとき公助に過剰依存する日本の住民に自助意識を持たせて、危機管理をどう植えつけていくか、大きな課題といえる。
また、危機管理には設備投資が必要である。例えば全国瞬時警報システム(J−Alert)、この設置には750万円の費用がかかる。厳しい地方財政のなかで、その設置を見送らざるを得ない自治体も見られる。
しかし工夫をこらせば費用をかけずに危機管理を展開することもできる。そのためには、自治体で危機管理に従事する職員は、日ごろから警察や消防、自衛隊やマスコミなどと意思疎通を図る努力を重ねることが重要である。
また、自治体では平時から職員に緊急時の持ち場と機能を周知徹底しておくことが重要であり、危機管理に精通する専門職員を育成することが望まれる。
不測事態が発生すると、72時間がきわめて重要になる。危機発生後の数日間の情報の空白化が対策の障害となるからである。
また、不安な住民が求めるのは情報である。
その情報は3種類に分類される。
ひとつは対象が不特定で長期的な対応が必要な「危機情報」これには議会だより等の広報による活動が得策。
もうひとつは、「警戒情報」地域や対象が特定されるため、自治体の広報車による情報伝達が有効とされる。最後が「緊急情報」である。対象は不特定で即時に対応が必要な情報である。自治体が個人のコンピューターや携帯電話に一方的に情報を流す方法である。
氏の講演のなかで、印象に残ったのはニューヨーク市長であったルドルフ・ジュリアーニの「割れ窓理論」のくだりである。割れ窓理論とは「建物の割れ窓といった明らかに些細にしか見えないことが放置されていることが、地域のより深刻な治安悪化をもたらす」ということである。
氏は自らの留学経験での粗大ごみの処分の経験談を引き合いに出し、大変面白く拝聴した。
矢田市長からは、神戸市自らの震災経験を通じて得た「減災社会」まちづくりについての講演を聞いた。
神戸市では、復興の過程で「自助・共助・公助」の重要性を図ると同時に、時代の変化に対応する「まちづくり」に取り組んできた。震災の経験から、都市の脆弱性や危機管理体制の課題を表面化させ、「防災」から「減災」へと対策の転換が図られた。
神戸市では、震災から15年の間に市民・事業者と協働して都市の危機管理について取り組んできたとのことである。
阪神・淡路大震災の被害状況
平成7年1月17日午前5時46分
淡路島北部を震源とする地震は、神戸市で最大震度7を記録し、死者・行方不明者4,571人、負傷者14,678人、最多避難者数236,899人、全半壊建物122,566棟、火災発生175件の戦後最大級の激甚災害を引き起こした。
神戸市の危機管理のあり方
「初動」の重要性から危機管理監と危機管理室を設置した。
危機管理監は、地震や風水害など自然災害だけでなく、大規模事故やテロ災害といった人為的災害に対しても対処する任務が付与されている。
自助・共助・公助で総合対策を進める
自助・共助の面では、地域コミュニティの防災力を高める自主防災組織「防災福祉コミュニティ」が191箇所の小学校区で結成され、活動が続けられている。
そして市は、公助の面からこうした活動を全面的に支援するとともに、体制の整備に取り組んだ。
また、常に市民と意識共有して進めるため、広報誌での発信や「出前トーク」「タウンミーティング」を行い、市民と意見交換を図っている。
協働と参画による防災力向上
神戸市は防コミ活動への支援として、職員が各防コミに地区担当制の「顔が見える」支援を行うほか、リーダー育成や資器材の充実等、費用補助を行っている。
産官学で危機管理への取り組みを行っていることは、興味深いことである。ポートアイランド内の4大学が各大学の特色を活かし、参画することなど「大学連携安全安心事業」は「人と人の絆」を大切にするという神戸ならではとのことである。
新たな危機への備え
そうした中、平成21年5月、市内で国内初の新型インフルエンザ患者が確認された。その際は、震災の教訓を活かして市、関係機関、地域が緊密な連携を図って共同して危機回避に取り組んだ。
今後も、被災による教訓を継承・発信して安心と安全な町を目指す意味で、総合的な危機管理・防災学習を推進し、共助による救命率向上のため、40万人の市民救命士を養成した。
神戸市では、行政は無論のこと、全ての市民が震災の教訓を活かして災害に備えるという姿勢があることを感じた。
とりわけ、市民の地域における防災への取り組みは、年の危機管理を総合的に進めるために不可欠なものであり、意識共有を図るために情報をいち早く共有することが重要である。
氏の講演は、都市が抱える危機をリスクとして体系的に分析し、「どのような状態になっても、やるべきことをやる」という冷静な体制作りというものであった。
・危機管理の目的
被害を出さないこと、最小限にとどめること(被害抑止)。
生じた被害に対し、効果的な対応(被害軽減)を可能にすることである。
・災害は二つの原因で決まる
ハザード:環境側の原因(きっかけ)
地域の防災力(脆弱性):人による原因
・防災の戦略
ハザードについて対策:制御・予見・予測
地域の防災力を向上させる対策:被害防止・被害軽減
・継続的な試み
過去の災害の教訓から学ぶ
ISO22320といったマネージメントの手法を用いて、明確な目標設定を行い、事業継続計画を立てることが危機管理としての防災力である。
そのために、一元的な危機対応体制の整備を行い、さらに研修・訓練を通して対応策の整備を図るというものである。
2001年9・11テロの教訓から、米英をはじめEU諸国では「どのような危機に対しても、効果的な危機対応ができる計画」とする一元的危機管理システムが構築されている。いわば、重大なリスクに対しては、基幹業務の確実な継続と、その他業務の迅速な再開を目指し、総合的に備えること。そうした戦略計画を策定することとしている。
昨年の神戸市における新型インフルエンザの対応では、不確定な要素が多くあったものの、事前に対応計画があったことから、状況の推移に応じて「ひとまず安全宣言」を出すことができて、社会機能へのダメージを抑えることができたとのことである。
鹿児島のシンボルである「桜島」。活火山を間近にした都市は、世界でも例を見ないとのことである。桜島には現在18の集落があり、約2,400世帯、5,500人が居住している。
櫻島は、約1万5千年前以降に活動が始まったと推定される若い活火山であり、有史以来幾度も大規模噴火を繰り返し、近年は爆発回数も増大の傾向にあり、憂慮される状況にある。
現状の対応
火山災害は、長期的な噴火予知が困難であり、ひとたび大規模噴火が発生すると甚大な被害が明らかである。そのため、行政と市民が協働した啓発活動や関係機関との連携など、平常時からの備えが重要である。
鹿児島市では、桜島の現状や今後の見通しについて、専門家による住民向けの研修会の実施や櫻島火山ハザードマップを作成し、緊急時の速やかな非難に備えている。
また、災害が発生した場合の情報伝達について、防災行政無線の拡充整備や広報、マスコミによる情報発信、自主防災会による地域住民の連絡体制により、情報提供等を行う体制になっている。
さらに、櫻島爆発を想定した大規模な住民参加型の防災訓練を毎年実施し、市民の防災意識の向上と関係機関が相互に緊密な連携を保ちながら、各種災害応急対策が迅速・適切に行われる防災体制の確立が図られている。
課題として、災害時要援護者の迅速な避難に向けた避難体制の確立が挙げられている。桜島に居住する住民の高齢化と支援者の確保である。そのため、地域住民間での日ごろからの交流によるつながりを深め、自主防災組織など災害時に協力が得られる体制作りが求められる。
これらは、先の林氏の講演にあった「過去の教訓であり、地域の防災力向上」にも共通するものである。
火山と共に生きていかなくてはならない鹿児島市にとって、いつか必ず起こることを前提に、住民の防災意識の啓発、迅速な情報伝達や避難体制の整備、道路、施設整備など、万全を期すとともに、一方では観光資源として火山の恵みを最大限に活用していくことも同市のまちづくりでもある。
危機管理の本質は危機の発生という平常時と極めて異なる状況の中で、損失を最小限にするために、いかに適切なマネージメントを行うかということにある。
この点についても、先に述べられているリスク分析による被害の回避であり、事業の継続にも通じる
まず重要なことは、危機発生直後、初動時における対応が極めて重要だということ。また、迅速な意思決定が不可欠である。
・危機の特性
突発性、巨大性、緊急性、深刻性
発生する事象に対するオペレーション
・下水トイレ、物流、災害廃棄物、被災者生活、医療健康管理、要援護者、産業対策、寒冷対策、ボランティア、公共インフラ等
上記のことが予測されるが、行政の保有する資源には限界があり、地域住民やボランティアが行政と協働して事態に対処しなければならない。
現代都市の抱える問題として、高齢化と都市活力の低下が挙げられる。それは、中心部における建築物の老朽化であり、管理放棄住宅の増加である。まさに、自立可能な市街地の崩壊と限界市街地化はコミュニティ基盤の崩壊につながる。災害時に必要とされるひとつは、市民が危機発生時に連携を図り、一体的に対応できることである。
その解消策としての街づくりが重要である。いわゆるコンパクトシティの推進である。都市のダウンサイジングを進め、分散化した人口や施設を都市中心部に再集積させなければならない。しかし、問題として高層マンションにおける地域コミュニティが成立しにくい状況があり、この点についてどのような街づくりを行っていくのかが課題といえよう。
そこで氏は、中心市街地における定期借地権制度の活用を提案している。商業住宅兼用ビルの再開発と共に、福祉住宅や地域のコミュニティの場としての広場や集会施設の整備を図るというものである。また、郊外へ移転した公共施設を都市中心部へ再移転することなど、この誘導措置を講じながら、民間と連携を図り、積極的に推進すべきとしている。
長期的な計画ながら、本市にとっても中心市街地の老朽化や耐震による建て替えを考慮しなければならない現状からすると、大変興味深いものと思った。
総括といえる二日目は、パネルディスカッションとして行われた。
まず、パネラーが一人10分の持ち時間で、それぞれの報告を行ったが、中でも自らの災害体験からの内容として、宮城県栗原市長・愛知県岡崎市長の話は印象的だった。
栗原市のケースでは、道路被害による山間部での孤立した集落住民の救出に、自衛隊の活躍について。また、災害時の通信手段確保の重要性が語られた。
岡崎市の場合は、最近のゲリラ豪雨などの局地的豪雨が、整備されたはずの下水等の処理能力を超える状況は、本市を含む自治体共通の問題であると感じた。
都市災害は、そこに住む地域住民の安全を確保することのほか、さまざまな課題を包含している。それが、都市における脆弱性といわれるものであり、だからこそ対策を検討する前に、どこにどんな脆弱性があるのか認識すべきである。
パネラーの意見は総じて、日ごろのより実践的な訓練の必要性や、地域における支援ネットワークの構築と共通している。
基調講演の中で指摘されたなかで、自助・共助・公助の割合が示された。それは7対2対1とのことである。初動の72時間が重要といわれる部分はまさに、自助・共助の部分である。つまり公助は当てにできないということを意味しているのだ。したがって、最重要なこととしての地域社会の構築が求められるということである。無関心が一番避けなければなれないことなのだ。
そのような社会関係資本(ソーシャルキャピタル)を構築するため、1.地域・テーマの興味・愛着喚起、2.あいさつ、3.イベント活用、4.こどもとの関わり、5.多様な住民参加、6.共通煮の課題、7.行政の支援、8.組織の自立力確保が求められる。
まず大事なことは、いつ起こるかわからない災害に対して、備えとしての訓練をしておくこと。これは、市民に対しての広報などを通して、日ごろからの意識付けをしておくことが必要である。
また、自助・共助・公助の意味合いをしっかりと伝え、理解を得ることも同様である。そのためにも地域でのつながりがより一層求められるところである。
災害発生からの初動の大部分は、自分と地域が対処することを認識しておくことだ。そのことを考えると、災害訓練だけでなく、祭礼をはじめ地域行事の重要性を改めて考えた次第である。
つぎに、災害時に市民の不安は情報の不足であるということから、防災ラジオの効用である。避難情報等の伝達手段としてのFM局の連携と共に、防災ラジオの導入も考慮すべき課題と考える。
また、市内事業者との災害協定の推進である。本市においても実践されているが、それが十分といえるのか不安なところでもある。検証をしたいところである。
岡崎市では、都市型災害の特徴として、内水氾濫の指摘があった。内水氾濫に対しては、経費や技術的な問題等から、多くの自治体で浸水想定区域の設定が行われていないとされ、本市においても同様であろうと考える。情報の収集を図り、該当する場所の特定を急ぐ必要があるではないだろうか。
また、本市においても街づくりの構想として、街なか居住やコンパクトシティ化が挙げられることから、定期借地権制度を利用した土地建物の利活用や福祉住宅、施設の兼用なども考慮すべき課題と考える。
さまざまな災害のケースや国民保護法に基づく訓練など、現代社会が取り巻く状況を想定した地域参加の訓練が必要と認識した次第である。
