活動報告

匠の技と新技術

平成20年6月4日 視察
田辺 昭人

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久里浜の長瀬にある造船所において、新工法によるプレジャーボートの製作が始まると聞き、視察を行う。そもそもこの制作にあたるのは、東京に本社を置く造船所の経営者が、偶然にも私の大学時代の直系の後輩にあたることがきっかけとなった。まず、この新工法がどんなものなのか、興味をおぼえ伺った次第である。
造船所プレジャーボート製作の様子1 工場内に入り目につくのは、船台の上に大きく載っているのはすべて木板で船型に構成された型枠である。見事に組み上げられたこの型枠だけで、すぐにでも船出ができそうにも思えるほどの代物である。しかも61フィート、40トンの大きさは工場の半分以上を占める大きさである。これほどの大きさのプレジャーボートはそうざらにはお目にかかれないし、もちろん国産にはないそうである。
 工場の2階に上がり、上から、船体を見ると、型枠にならって分厚いシート状のマットがぎっしりと敷き詰められている。そして、その上を覆うようにブルーのビニールが同じように敷かれている。

造船所プレジャーボート製作の様子2造船所プレジャーボート製作の様子3

実はこの光景が、新工法とのことだった。これまでの工法では、型枠の内側にガラス繊維を幾重にも重ねたうえ、職人がローラー刷毛でポリエステル樹脂を上塗りしていくものだった。こうしてFRP船が制作されていたことに対して、この新工法はインフュージョン(真空引き抜き)工法と呼ばれ、マット状に見える蜂の巣状の資材を敷き詰め、その上をビニールで覆い、その後内部の空気を吸引して真空状態を作り上げる。そしてその後、ポリエステル樹脂を圧入するのである。高圧で圧入された樹脂はマットの外側だけでなく、蜂の巣状の内壁まで行きわたり、その結果これまでの工法以上の強度を持つ船体が出来上がるとのことである。この工法自体、海外メーカーでの実績はあるが、国内では初めてだそうだ。
この工法のメリットはまず、比較的に工期が短縮できること・軽量化により省エネが図れる・より強い強度の確保・デザインの多様性(特に船底など)・それらの結果、可能となる機能性の向上がある。今日の視察は私以外にも多くのギャラリーがビデオを持ち参加していたが、各マリンメーカーのほか国交省からも今後の強度規格の策定のために参加しているそうだ。この新しい工法が今後、広く採用されることを期待するところである。
造船所プレジャーボート製作の様子4  この船の制作にあたり、本社工場を既に東京に持つ同社が、今回なぜこの横須賀でわざわざ制作することになったのか聞いてみた。その理由として一番に挙げられたのは、船大工の存在である。実寸の船図がひけて、船図どおりの微妙な曲線通りの加工ができる船大工は、もう東京にはほとんどいないのが現状だそうで、それがこの横須賀には約20名存在しているとのこと。その人たちが制作にかかわっている。しかし、今後のことを考えると、横須賀でも高齢化が進み、後継者を作ることが急務ともいわれる。技術的なポテンシャルが高い今、その技術を若い人たちに伝えていかなければならない。後輩がいわく、「横須賀には他にはない技術力がある。しかし、つないでいくための夢がない。」
「日本のプレジャーボートの市場は2〜3年で急速に拡大するだろう」との説が聞かれる。先日も横浜・みなとみらい21新港地区で「国際マリンエンターテイメントショー」が開催され、一隻3億円を超す超高級プレジャーボートなどが出展された。プレジャーボートの普及は欧米に比べ、10年ほど遅れているそうである。「マリーナの数が圧倒的に少なく、利用料も高いうえ、操縦免許などに対する規制が厳しい事が原因」との指摘がある。しかし、潜在的な需要は大きいとして、「保有環境が整えば、市場は急速に拡大する」ということが考えられる。
 前述したように、伝統と技術的な裏付け・加えて新しい工法による造船・新たなマーケットの開発によって「夢」のある仕事・これは今後の横須賀ならではの事業につながることではないだろうか。2年後の秋には羽田空港の国際化に伴う拡張工事の完成、そこから60分で来られるアクセス、それらが実現したとき、この横須賀の価値とともに、これらマリン産業が財産となることを期待するものである。

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